HYPNOTIC DOLLS annex

u-様からいただきましたお題『イヤホン』。
小秋様からいただきましたお題『節操無し』。

五十嵐×璃宮。
。。。と云うかCP以前の話(汗

この組み合わせは初挑戦。
何かが始まりそうで。始まらないかもしれない。。
こういう“きっかけの話”を書くのが好きなのです。
りっくんがぎこちなさすぎる気もしますが。。(滝汗
u-様と小秋様なら許してくださると信じて。。っ！


タイトルは２人が聴いている曲の名前です多分←
HYDEの『THE CAPE OF STORMS』のイメージで。

―The Taste of Sin―


少し眠っていたのかもしれない。

「。。。何してるんですか？」

片方の耳から抜き取られたイヤホンのラインを辿っていくと、その先に黒い頭が見えた。

「どんな音楽(おと)聞いてるのかと思って」

こちらを見て屈託無く笑う顔は、普段の行動と同じで歳相応とは言い難い。

「ふぅん。。。こんな曲聴いてんだなぁ」

頭でリズムを取りながら、独り言の様に呟いた。

「意外でしたか？」

訊き返された事の方が意外だ、という表情で振り返って僕を見る。

「意外、ではなかったかな」
「へぇ」

語尾上がりに云い捨てて冷ややかな視線を向けても、一向に気にする様子が無い。

「いや。意外って云えば意外。。。か？」

飄々とした口調が僕を苛立たせる。

「どっちなんですか？！」

無精ヒゲさえキレイに剃ればもう少しマシになるんじゃないか、と。
間近で顔を見ていて思ったけれど、訂正。
ヒゲが有ったって無くたって、特刑内では実質ナンバー２の諜報課課長の威厳なんてものはどこにも無い。

「今日はリアクションいいじゃないか、上條！」

それ、部署は違うと云っても上司クラスの者の云う台詞じゃない。
しかもやたらと嬉しそうなのかムカつく。

「。。。って云うか、なんでそっちに居るんですか？五十嵐課長」

僕が寝そべっているソファの、頭を乗せている肘掛けの向こうに頭頂部が見えているから、床に直に座ってソファの側面に寄り掛かっている様だ。

「うん？こっちの方が落ち着きそうに見えないか？」

喋るのも面倒臭くて上目遣いで見詰めていたら、照れながらぽりぽりと頭を掻いた。

「や、まぁな。大人の事情ってヤツだ」

何が“大人の”事情だ。
大人気なくまた誰かから逃げ回っているのだろう。
ソファはこの部屋の入口の方を向いていて、正面に座った場合ドアが開けられたら丸見えになるから死角になる所に座っただけだろうに。

「他人(ひと)にちょっかい出してる暇なんて無いでしょう？」

五十嵐課長は背筋を伸ばして両目を肘掛けの上から覗かせて、僕の顔を見て含みのある笑みを浮かべた。

「上條はヒマそうだな。まだ潜伏先が掴めてないのか？」

朝からずっと静伽達が死刑囚の足跡を追っているが、未だに発見出来ていないどころかどこに居るのか見当もついていない。

「隊員専用の待機室だっていうのに、これじゃ気持ちが休まらない」

溜め息混じりの僕の嫌味を軽く聞き流して、五十嵐課長は音楽に合わせて全身を揺すっている。
頭は切れるが、掴み所が無い。何を考えているか全く分からない。
それがこの人に対して僕が抱いている印象。
所詮相通ずるところが無いのだから、近くに居て居心地が良い訳が無い。

「上條～この曲好きなのか？」

「。。。はい」

「なぁ、今度飯でも食いに行かないか？」

「はぁ！？」

呆れる僕に、悪戯っぽい笑みが返ってきた。
誰のこともこんな感じに誘うのだろう。
時々第一と呑みに行くところを見掛けるが、僕まで一緒にしないで欲しい。
群れるのもつるむのも嫌いだ。意味が分からない。

「節操無し」

口の中で小さく呟く。
それが聞こえたのかこちらを見た目と目が合って、軽蔑の眼差しに気付いた筈なのにそこでなんで笑顔を返すのか理解出来ない。

「この曲、俺も好きなんだ」

自分の耳から抜いたイヤホンを僕の耳に戻すと立ち上がり、埃を払うように腰をぱんぱんと叩いた。

「このアーティスト自体マイナーだから、知ってるヤツが近くに居るとは思わなかったよ」

意外。。。
僕も、思っていなかった。

「だから今度、飯。呑みでもいいぞ。奢ってやるから、な？」

僕からの返事も待たずに慌しく出ていったその直後、ノックの音とほぼ同時に待機室のドアが開いて柏原班長の顔が覗いた。

「五十嵐課長、今ここに居なかった？」

あの人には逃亡用のセンサーが何か付いてるんじゃないか？

「いいえ」

迷いもなく、即答する。

「そ～か～。。。全くあの人はどこ行っちゃったんだろう！」

困り果てた表情(かお)で呟く柏原班長を視界の端に見ながら目を閉じる。
１曲リピートで聴いている曲の向こうで、ドアが閉まる音が微かに聞こえた。


―Ｅｎｄ―