HYPNOTIC DOLLS annex

五十嵐×上條。R指定なし。

相当凹んでる璃宮が主役。
原作でも誰か傍に居て欲しいオーラ全開だと思うのですが。。
素直じゃないところが可愛いのでしょう。
。。そういう話（笑）

愛内里菜『precious pain』のイメージで。。
かなり懐かしい曲ですが好きなので。

―precious pain―


「バカみたいだ」

声に出して云ってみたら本当に馬鹿らしくなってきた。

この前の夜、枕元に放り投げられていた箱から一本だけ抜き取っておいた煙草に火を点けて吸ってみたら途端に思いっ切りムセて、ノドから胸の奥まで痛くなった。それと、煙が目にしみただけで別に泣いているんじゃない。
他に誰も居ないのにそう自分に対して弁解している自分が悲しくなって、そうしたら自然に涙が出てきて。ぽろぽろ、ぽろぽろ。止まらなくなって視界がブヨブヨと歪んだ。
一度しか喫っていない煙草を足下へ投げ捨て踏みつけて火を消そうとしたが躊躇して靴の爪先を上げたのは、香りが、したからだ。

「だから？」

深く溜め息をついて、己に問い直す。
地面に落とした煙草から立ち上る一筋の煙。嗅ぎ慣れたその香り。
髪や服にニオイが付くから嫌だと云っても聞き流されるのは面白くなかったけれども、やがて慣れてしまった。

第三部隊の隊長ともあろう者がこんなことでうじうじしているなんて！

言葉にして云ってしまえばこのもやもやした感じもクリアになるようで、実は何も変わらない。云うだけ情けなくなりそうで、声に出さなかった。
半ばヤケになって一気に煙草を踏み消すと靴底がジャリジャリと鳴った。火が消えてからもしばらくジャリジャリ、ジャリジャリと音を立て続ける、
このイラつきの原因が解らないから余計にイライラする。

「こっち来れば？」

背を向けたまま、この屋上への唯一の出入口の横に立つ人影へ言葉を投げる。

「気付いてたか」

今聞きたくなくて、一番聞きたかった声がして、背筋が強張った。

「。。何で？」

後ろから近付いてきた気配が立ち止まり、座っている僕の頭の上に手を置いた。

「ちょっと息抜き。一服しようと思って」

頭を撫で回されるのは子供扱いされているようで好きではない。

「そんな安易な云い訳つけてこんなとこまで来ないでよ」

安易な、か！と呟くと五十嵐は声を出して笑った。

「素直になれない誰かさんが凹んでるんじゃないかなと思って探して来た、って正直に云ったとしたら？」

仰る通りひねくれ者の僕はアンタが来てくれた事も素直に喜べない。

「上條にしては珍しいミスしたな。まぁ、大したことにならなかったし任務も完了させたから、三上さんは何も云ってなかったけどさ」

結果の問題ではなく、失敗したこと自体がイヤなんだ。。分かっているクセに。

「そんな事を云う為に探さなくていい」

髪を撫でていた手が僕の首に回され、腰を下ろした五十嵐が居るのと反対側の耳朶と髪を弄る。

「や、本当の目的は違うんだな」
「目的？」
「明日の晩空いてたら、メシ食いに行こう」

笑った口元から煙草の匂いがする。

「。。今夜じゃないんだ？」

今まで誘われるのは当日になってからで、如何にも予定なんか無いだろう？と云われているようで嬉しいような嫌なような複雑な気持ちだった。

「その日にならないと本当に時間が取れるかどうか分からないからいつもは確定してから誘うんだが、今回は特別」

バカみたい、じゃなくて、馬鹿だ。
任務中に普段ならしないようなごく基礎的なミスをして落ち込んでいたのに、特別、なんて言葉であっさり浮上する。慰めは要らないと云っても、潜在意識の中で五十嵐が来てくれるんじゃないかと期待していた。任務完了報告を済ませて部長室を出る瞬間に目が合ったから。。そんな些細な事で。
でも、気持ちが通じていた。それだけで。。

「返事は？」

耳を弄んでいる指を払おうと頭を小さく振ると、唇がこめかみに軽く触れた。

「髭、痛い」

顔を横へ向け、唇に唇を重ねる。歯列がこじ開けられるのも舌で探られるのも拒まず寧ろ目の前の肩に手を置いて、自分から身体を胸元に寄せて舌を舐め返した。

「素直じゃねぇなぁ」

ここで素直になったら“お前らしくねぇなぁ”って笑われるだろうし、そんなむざむざと喜ばせるようなことをする気も無い、と、心の中で強がってみせて。

少し苦くて甘い、五十嵐の唾液はあの煙草と同じ味がした。


―End―