HYPNOTIC DOLLS annex

三上×式部。

清寿の誕生日の翌日の。。
秋の月が美しい夜の話。

大人っぽい雰囲気を狙ったんですが見事失敗(汗
しっとり感やほっこり感が伝われば幸いです。

―Nuit Blanche―


ブラインドを下ろし忘れた窓からは星が疎らに光る空が見えて。
寝転んでいるのに飽きたから起き上がってぺたんと座ってみた。
身体はまだ火照っていても汗は引き、乾いた肌の上を髪の毛がゆっくり滑り落ちてゆく感触が心地良い。

「いや。だから。。。」

三上さんの声が少し苛立ってきたみたいに感じる。
電話で済むような話ではなさそうだけどここで片付けようとしているのは僕のせいかもしれないと申し訳なく思っても、傍で見つめることしか出来ない。
その視線に気付いてちらっとこちらを見てから手元の紙にペンを走らせて、滑らせるようにして僕の方へ寄越した。

“カゼをひくから　ふとんに入りなさい”

その優しさに小さく笑って。でも逆らってみたくなる。
目の部屋の監視が無い部屋だからこそこんな風に裸のままで、情事の余韻に浸ることが許される。
この解放感は常に監視（み）られている者にしか解らない。

怒られるかな。。？

そう思いながら、携帯電話を当てていない方の耳朶にそっとくちづける。
三上さんはくすぐったそうに肩を竦めて、空いている手で頭を撫でてくれた。
その手の動きに添うように、三上さんの傍らに横たわる。
ふわりと掛けてくれた毛布の端に残る温もり。
ベッドの上に散らばったメモの上に増えてゆく覚え書きを乱さないように、手足を小さく縮めて寄り添う。

昨日は僕の誕生日で。
昨晩から今までずっと、ほとんどの時間をベッドの上で過ごしている。
愛し合っては疲れて眠り、起きてまた愛し合う。
求めて、求められて。声が嗄れて咽喉がひりひりする。

「清寿」

呼ばれて目を覚ます。
少し眠ってしまったようで、いつの間にか電話を切った三上さんが上から覗き込むように見ていた。

「行くの？」

目を擦りながら欠伸混じりに訊いてみる。
答えは分かっているけど、眠いからこのまま寝てしまえばいいや。
朝までぐっすり眠ってしまえば寂しいと感じないで済む。

「どこへ？」

予想外の返事に驚いて、いっぺんで目が覚める。

「え。。っと。。本部？」

笑いを噛み殺して、三上さんの肩が思いっきり震えている。
その反応の意味を問い質そうとした時に、また、携帯電話が鳴りだした。

「三上さんが行かないと埒が明かないなら。。」

云い掛けた僕の口を手で覆って黙らせてから電話に出る。
横眼でこちらの様子を窺って口元に悪戯っぽい笑みを浮かべていても、声も口調もいつも通りのクールさ。
その手のひらに小さく音をさせてくちづけて、上目遣いで顔を見る。

人間（ひと）ってなんて欲が深いんだろう。

唇に触れてきた指先を淫らにしゃぶる。
胸を押しつけて誘うように足を絡める。
腰が怠くなるくらい何度も抱かれたのに。。
まだ足りない。まだまだ欲しい。
必要とされたいから傍に居たい。
だから。。傍に居て欲しい。

終わらない電話の向こうからは困り切った様な五十嵐課長の声。
身体を離して仰向けになると先刻より部屋が明るいのに気付いた。

ああ、そうか。満月が近いんだ。。

何かあったらいつでも連絡してこい、と、仕事帰りに家の前で別れる時には必ず云ってくれる笑太君も、同じ月を見ているかもしれない。

「ごめんなさい。。」

誰へともなく、小さく小さく呟いてみる。
電話で話している三上さんには聴こえるハズが無いのに。
まるで聞こえたかの様に優しく頬を撫でられて、切なくて堪らなくて。
瞼を閉じるとその裏側で、月の残像が青く光って揺れた。

―End―