HYPNOTIC DOLLS annex

三上×式部。Ｒ指定なし。

急に秋めいてきたので秋っぽい話を。
そう思って書いたのですが。。

恋愛下手な三上さんのせいで
清寿がひとりぐるぐる考えているだけで
ほんのひと欠片も季節感の無い話に(笑

秋の夜長と申しまして。。
夏が過ぎ涼しくなってきたある夜の話、
そう思いながら読んで頂けると嬉しいです。。

―君の居る景色―


「まずはどこへ？」

呼び出しは大概突然で、帰宅してから連絡が来ることもある。

「食事を。この前話したフランス料理の店を予約してある」

助手席に座ってシートベルトを締めてすぐに、最初の質問をする。
黙っていたり他の話をしたりしていると説明も無く三上さんだけが知っている目的地に連れて行かれてしまう事が多いから、最近は自分から訊くことにしている。

「食事の後は？」

決まり文句のように毎回同じ質問とパターン化した返事。
送っていく、だったら僕を家まで送って自分は職場へ戻る時。
うちへ、の場合は否応なしに三上さんの家に連れて行かれる。
今夜もそのいずれかだと疑わずに投げた問いの答えは、思いもよらない言葉だった。

「そのまま」

目を丸くして黙って見詰め続けていたら、次の赤信号で停車した時に気が付いてくれた。

「しばらくドライブに付き合って貰いたい。いいかな？」

いいだろう？ではなく、いいかな？。。
本当に本当に小さなニュアンスの違いに、ノドに引っ掛った魚の小骨みたいな違和感を感じる。

「その後は？」

先刻返ってきた答えも想定外だったし、ここから先の問いもしたことが無い。

「。。その時に決める」

きっちりしていないと嫌な人なのに今夜のこの曖昧さはなんだろう？
バックミラー越しに見ている僕の視線に気付いていながら意識していないフリをされているのも妙に落ち着かない。

「どこか行きたい所がある？」

ここの方が自宅より安全だということは分かっていても。
ただ、今夜ここに居るのが正しいのかどうか判断するのは難しい。

「なんとなく車で走りたくなった。それだけだ」

光が通り過ぎる度に見えたり見えづらくなったりする顔。黙ってしまえば無表情になって意図が読めなくなる。
ううん。違うな。
貴方の考えが読めたことなど任務の時もプライベートでも今まで一度も無いのだから。このかつて経験したことのない状況で予測出来るはずが無い。

「警戒しなくていい」

前を向いて黙り込んだ僕に笑い掛ける横顔。
そっ、と指を伸ばして手の甲に触れ、本当に本物の三上さんが横に居ると確認する。

「拾われたばかりの野良猫みたいな顔だ」

云われて慌てて笑みを作る。

「逆。。ですね。初めてのお出かけでどこへ連れていかれて何されるんだろうって心配している飼い猫の気分の方が近いです」

肩に、頭を預ける。

「何かあったのか訊きたい。でも」

手は重ねたまま、もう片方の手で腿の上を掴んで。

「。。云えない事なら云わなくていいです。そんな秘密、いっぱいいっぱいあるの、分かってます」

自分の中に生まれた不安を言葉にしたら落ち着くかと思ったけれど、そんなことは無く、返事が貰えずもっと不安になっただけだった。

「僕はどうしていたらいいですか？黙って座っていた方がいい？それとも何か喋っていた方が。。」
「好きにしていればいい」

語尾と一緒に吸い込んだ息を吐き出すまでの短いのに長く感じた沈黙の中、何故貴方が微笑んでいるのかが理解出来ない。

「そこに居てくれれば何をしていてもいい。傍に居てくれさえすれば」

はにかんだような笑みとも、苦笑いともとれる微妙な表情は一瞬で消えて。
だから僕は嬉しい顔をしたらいいのか、苦笑を返したらいいのか分からなくなって静かに俯く。

「清寿。顔」

目線を上げると口元に唇が追ってきて、初めてキスをした時みたいなぎこちないくちづけを数度交わす。

「まず食事をしてその後ドライブに行く。ごく一般的なデートコースだと思うが、違うか？」

違わない。。僕の考え過ぎだ。

「え、だって。こんな遅い時間だし。。意味有り気な云い方をするから。。」

意外と笑い上戸で、一度ツボに入るとなかなか止まらない。
でもそうやって笑って少しでも気持ちが和らぐのなら、僕はここに居ていいと思うことが出来る。

「。。尊人さん、笑い過ぎです」

理由が説明出来ないのを上手誤魔化された気もする、けれど。


―End―