HYPNOTIC DOLLS annex

三上×式部。

こういう時だからこそ甘い話を。
そう思っていたら降りてきた。。
大人な清寿と大人げない三上さんの話です(笑

言葉にしなくても願いは届く。
お互いのことを大事に思っているのならきっと。
好き、と云わなくても、心は繋がっている。

小田和正『言葉にできない』を聴きながら書きました。

―言葉にできない―


『今夜お部屋に泊まってもいいですか？』

そうメールしたのは数時間前。

『構わない』

たった今届いたばかりの、ただそれだけの短い返信を確かめて、パチン！とケータイを閉じた。

「遅い！もう来ちゃってるよっ」

勢いをつけて背中からベッドに身を投げて、手の指の先が触れた枕を引き寄せる。
帰れないとも帰れるともメールには書いていなかったから、ほぼ100％の確率で帰っては来れないのだろう。

笑太君には、三上さんにワガママなんて通用しないだろ？って云われたりするけれど、メールすれば必ず返事をくれる。
それが何時間後でも、どんなに短い文面でも、可能でも不可能でも、返信が来るだけで嬉しい。。
そういうの、意外と気が短い笑太君には分かって貰えないだろうな。

抱き締めていた枕を放り投げて身体を起こすと首を巡らせて、夜になり暗くなってきた室内を見渡した。
誰も居ない部屋は寒くても、ここが貴方の家で、僕が居ることを貴方が知っていてくれる、それだけで眠れる気がして１人でも時々泊りにくる。
ベッドから下りて、自分で洗濯して畳んでクローゼットにしまっておいたパジャマを引っ張り出してゆっくりと着替えると、大きなベッドの真ん中に潜り込んだ。
年に数回しか帰って来ない家主の残り香などするわけないのに、目を閉じると無意識にそれを探してしまう。。
それに気付いて、いつもの様に苦笑した。

「会いたい、な」

ほぼ毎日任務の前と後に顔を合わせているとしてもそれは冷徹で切れ者で誰に対しても容赦がない特刑トップの三上部長で、僕の好きな尊人さんじゃない。
今日も厳しかったな。。なんて。
そんなことを思い出したらなんだかへこんできた。

「あ～もうっ！寝よっ。おやすみなさい」

わざと声に出してそう云ってから、固く瞼を閉じて眠る為の努力をすることにした。



カチリ。


玄関が開いて閉まる音がして数分経過。
足音を忍ばせて寝室に近付いてくる気配を寝たふりをしたまま追跡する。
背後にあるドアが開き何者かが部屋へ入って来た時、瞬時に跳ね起きて、身構えた。

「誰っ？！」

僕を見て目を細めて笑ってみせた顔に驚いて、絶句したまま脱力してベッドの上にぺたりと座りこんだ。

「起きるだろうな、とは思っていたが」

伸ばされてきた腕に、抱き取られる。

「それとも眠っていなかっただけか？」

胸元に顔を埋めて首を左右に振った後深呼吸をすると、嗅ぎ慣れてきたコロンの匂いで涙が出そうになった。

「尊人さん。。本物？」

髪を撫でてくれた手を口元へ誘って、想いを込めてくちづける。
反対の手が僕の唇から頬へと触れてから、首筋を辿って襟元に落ちた。

「間違いなく本物だ。但しあまり時間が無い」

パジャマの一番上のボタンを外して滑り込んできた指先が、鎖骨の上をなぞる。

「時間？」

上がる息を押し殺して、唇に唇を押し付けて舌と舌を絡ませる。

「１時間だけと休憩を貰ってきた。だから長くは居られない」

そう云いながら笑うから、つられてつい笑ってしまった。

「いくら僕に会いたかったからって、そんな無理はしないで下さい」

冗談めかして云いながら、くちづけの最中に乱してしまった髪を手櫛で整えてあげる。

「なんてね！もう戻らないと時間がな。。っ！！」

小さな痛みが走って、唇で作った印が素肌に残される。

「会いたかった。だから。。すまない、清寿」

最後に重ねられた唇に気を取られている隙に、尊人さんは少し前に脱いだばかりの上着を掴んで振り返ることもなく寝室から出て行ってしまった。


カチリ。



玄関のロックが掛かる音を聞いてからもしばらくは動けずにいた。

「『会いたかった。だから。。』会いに来た？。。来てくれた。。」

涙が零れて頬を伝い、それで我に返って頭から布団に潜り込むと、鎖骨の付け根近くに付けられたキスマークがちくりと疼いた。
嬉しくて、切なくて、自分を抱き締めているうちにやがて深い眠りに落ちていた。


―End―