HYPNOTIC DOLLS annex

三上×式部。悶々系？

三上さんお誕生日おめでとうございます！

と云うことで、
年末年始もしもシリーズ最終話はハピバ♪な話です。

―Fake Paradise―


眠っている、と、思ってる？

瞼をほんの少しだけ開けて、僅かな隙間から様子を窺う。
黒い影が落ちた横顔に、光の線が何本も通り過ぎてゆく。
前を向いている視線は鋭くて。
その方が見慣れた顔なのだけど。
でも。
ふたりで居る時くらいは。。

「式部」

反応しない。答えない。
寝ているフリなんかじゃない、本当は。
今日の僕は怒ってるんだよ。
。。全然伝わっていないみたいだけれど。

溜め息をついて黙っちゃうんだ。。

どうして？とか、なんで？とか。
そういうことを訊かないのが大人のルール？
それともただ単に、興味が無いから。。だったら。。？

「もうすぐ着く」

薄く瞼を開いて貴方の様子を見てから、閉じる。

背筋を伸ばして車のハンドルを握っている姿。
いつでも冷静なところ。
声。手。指。
好きなところをひとつづつ挙げてみる。
憧れが好きに変わってから求めるばかりで、何度呆れたように溜め息をつかれたかしれない。

僕だけが好き、なのかも。

ゆるやかにブレーキが掛かって停車した。
赤信号？
これからどこへ行くのか教えてもらっていない。
今夜に限らず、先に行き先を告げられることはない。
いつも連れて行かれるばかり。。
貴方は大人過ぎて、遠くて、不安で、悲しくなる。

ちゅっ。

温かい感触が残る口元を両手で覆って、目を見開く。

「機嫌が悪い理由を教えてくれないか？」

頬に柔らかい笑みを漂わせて、穏やかな口調で三上さんが訊く。
僕は口を尖らせて、ぼそぼそと小さな声で答えた。

「忘年会で貰ったペアチケットが無駄になっちゃった。。」

年末の特刑忘年会のゲームの一等賞の景品は、憧れのテーマパークのペア無料入場券。
頑張って取ったのに使用出来るのは年末年始の数日だけと期限が短くて、年末も年始も関係なく多忙の三上さんと一緒に行くのは絶対無理そうで、誘うことすら出来なかった。

「誰か誘って行けば良かったのに」

滑るように車が走り出した。
運転は丁寧。でも、急いでいるような印象。
車窓から見えるのは真っ暗な空と、点々と灯るオレンジ色の街灯。

「。。三上さんと、行きたかったの！」

目を見詰めて云って直ぐに、瞼を伏せる。
駆け引きするより気持ちが先走って、どう云ったらいいか分からない。
恋愛経験の無い僕にはこれがいっぱいいっぱい。

キュッ。

乱暴に車が停まった。

「目を開けて」

優しい声に、ゆっくりと目を開く。

パーンッ！

フロントガラス越しに見える空に、花火が上がった。

「わぁ。。っ」
「間に合わなかったか」
「ここ。。って？！」

質問には答えてくれずに、三上さんは車を降りた。
慌てて僕も、車外に出た。
そして迷いも無く入場ゲートへ向かう後ろ姿を追い掛ける。

「ちょっ。。三上さん、もう閉園の時間だよっ！？」
「だから。急いで」

夜空に開く大輪の花火のせいで、振り返ってくれても逆光になって表情がなんとなくしか見えない。

「花火が見える部屋をと指定したのに無駄になった。これであいこだ」
「？」
「中のホテルに予約を取ってある」
「。。え、え～っ！？」
「一度泊まってみたいと云っていたからこの機会にと思ったんだが。。」

舞い上がっていて、三上さんが何のことを云っているのかピンと来ない。

「その表情(かお)。。明日絶対に休みを取れと云っていたのを自分で忘れてるな？」

「お誕生日っ！おめでとうございます！！」

年末年始、僕達も休みが無くて忙しくて。。
忘れてなかったよ、と云ったら嘘になるから。
駆け寄って、爪先立ちして唇を重ねた。

「僕。。プレゼントも何も。。」
「その笑顔が貰えたからいいよ」

こんなので良かったらいくらでも。
今夜は貴方の為だけに沢山の笑顔をあげる。


―End―